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2010年12月24日 (金)

罪と罰第4部(11)

ラスコーリニコフさん、ソフィアさんのおうちを訪ねますが・・・

29 ろうそくと燭台と床

① そこにあるつぶれかけの椅子の上には、ひしゃげた銅の燭台にろうそくがひとつ灯っていた(亀山訳295ページ)

「つぶれかけの」とはビミョーな表現。座面がへこんでいるのであれば(たぶんそういうことだと思うんですが)、「つぶれた」? 「ひしゃげた」も。「ひしがれた」とは語感が違ってきているので。しかしほかにうまい表現がないのかな・・・ところで、なぜ、ひしゃげてしまったのか。ろうそくが載るのか・・・まあ、まあ、先へ。

② 一分ほどすると、ソーニャも部屋に現われ、手にしたろうそくを床に置くと、そのまま彼の前で立ちつくしてしまった。(亀山訳296ぺージ)

え、床へ? 原文ではどこに置いたかわからないが・・・まあ、まあ、先へ。部屋は広い。テーブルは右手の壁の隣に通じるドアの前。ラスコーリニコフは反対側の壁の隅近くにある箪笥の上に聖書を見つける。

③ 彼はその本をろうそくに近づけ、ページをくりはじめた。(亀山訳321ページ)

「ろうそくに近づけ」とは、そばにほかのろうそくがあるよう。しかし、彼はソーニャに、ラザロのところを見つけて読んでくれと言って腰を下ろし、テーブルに頬杖をつく。ソーニャはテーブルに歩みより、本を手に取る。従って、本は「ろうそくのところまで持ってきた」、そして、ろうそくは「床」ではなく「テーブル」の上にありそう。

④ ねじれた燭台に載っているもえさしのろうそくは、もうだいぶ前から燃えつきようとして(亀山訳329ページ)

「ひしゃげた」と「ねじれた」はちょっと違う。ねじるのは容易じゃない。もしかしてデザイン? 燭台を修飾している形容詞は、 искривленномにしてもкривомにしても、湾曲しているという意味らしい。何か「不自由さ」を暗示するために「ひしゃげた」とかが選択されたのかな。ま、ま、たいした話じゃござんせん。すまんこってす。

30 ソフィヤさん、11時でござんすか?

「ええ、そう、そうでした!」そこに自分のすべてがかかっているとでもいうように、急にあわてて言いそえた。(亀山訳298ページ)

заторопилась она вдруг, как будто в этом был для нее весь исход

исходを「結果」とみると、亀山訳のようになる。が、「出口、解決」の意味にとれないだろうか? 「急にあわてて」という、とびつく感じからすると・・・それで何かから脱出できるかのように・・・露骨ですか・・・

31 ソフィヤさん、あの人が好きなんですね?

「カテリーナさんが? そんな、決まってるでしょう!」ソーニャはふいに苦しげに両手を組み、哀れっぽい調子で、ゆっくりと答えた。(亀山訳302ページ)

— Ее? Да ка-а-ак же! — протянула Соня жалобно и с страданием сложив вдруг руки

「ゆっくりと答えた」はпротянулаに対応している。江川訳は:

「きまってるじゃァありませんか!」(中略)引きのばすような、哀れっぽい調子で言った。

すなわち、ка-а-акの部分が「引きのばすよう」だ。как →ка-а-ак 。しかし、「きまってるじゃァ」では引き延ばした感じはあまりしないし、意図は伝わってないような。「ゆっくりと」は違うでしょ。

как жеはもちろんでございますという意味。決まってるじゃありませんかで結構だけど、それに決まってるわけじゃあない。中村さんは「それはもう!」。これでは味気ないけど、ちょぉっと変えて、「そりゃぁあ、もぉ-ぉお!」とかしたら、どぉお?

32 ほなら、出てゆけ~!

今日も家主のおかみさんが、出ていってほしいと言ってきたらしいんですが、カテリーナさんはカテリーナさんで、こっちこそ一分だっていたくないって返事したとか(亀山訳304ページ)

только хозяйка, слышно, говорила сегодня, что отказать хочет, а Катерина Ивановна говорит, что и сама ни минуты не останется

カテリーナさんのことだからそう返事したにちがいないけど、говоритだからなあ、「言っている」じゃないかなあ・・・カテリーナさんはカテリーナさんで一分だっていたくないって言うんです、では・・・その場の返事より「言っている」ほうが厄介な場合もあるし・・・

33 リザヴェータが持ってきた襟と袖あて

『ねえ、ソーニャ、わたしにこれ、プレゼントしておくれよ、お願い』って言うんです。お願いってせがむくらいですから、ほんとにほしかったのね。でも、そんなものつけて、どこに出かけるっていうんです! ただ、幸せだった昔のころを思いだしただけなんですよ! 鏡にうつして、うっとり見とれてましたけど、着るものなんて一着も持っていないんですよ、一着も。いえ、持ち物だって何もない。もう何年もです!(亀山訳308ページ)

結局、ソーニャは、あげるのが惜しくて、「こんなものもらってどうなさるの?」と言う。その気分がここにも、いや、この訳にも出ている。着けていくところもないくせに。思いだしたってしょうがない・・・とくに重要なのは、「鏡にうつして、うっとり見とれてましたけど、着るものなんて一着も持っていないんですよ」のところ。着る物もないのに襟があってもしょうがないという意味でしょ。しかし、「持ち物だって何もない」に齟齬の兆し。いや、ほかの訳者さんも同じ様な訳し方してるけど、変だと思うんだなあ。すでに、出かけるところはない!と断ち切っているのに、「着るものなんて」なんて。

こう考えたらどうでしょう。「それを着けていくところがあるでしょうか! ただそうやって幸せな昔を思いだしただけなんです」は、あげたくない気持ちの反映ではなく、ただカテリーナの気持ち説明しただけと。そして、Смотрится на себя в зеркало, любуется, は「うっとり見とれてましたけど」ではなく、(昔を思いだそうと)「鏡にうつしてうっとり見とれようにも、着物もないし、小物もないんですから、もう何年も!」

いや、どうも釈然としないけど、少なくとも、「うっとり見とれてましたけど」は変でございます。

おまけ。どうでもいいかな。ちょっと戻って、あの廊下のシーンの後の、ラスコーリニコフと別れたラズミーヒンですが、こういうところがある。

彼のことは自分がしっかりと監視し、きちんとした立派な医師を見つけだして、立ち会い診察を受けさせると請けあった(亀山訳294ページ)

いやね、「監視」という言葉はプリヘーリヤさんの求めるところと違うんじゃないかと思って・・・

ふう、年内にもう一回更新できるでしょうか・・・

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